2016年11月、神奈川平塚でO157による集団食中毒が発生しました。

メンチカツを食べて腹痛、下痢などを訴えた数名からO157が検出され、この型がメンチカツから検出された型と一致したため、食中毒事件と断定されました。重症のため入院治療を受けている方もいます。

このO157は、腸管出血性大腸菌(EHEC)と呼ばれる危険なグループの菌です。EHECはしばしば感染者に腎臓障害を残したり死亡者を出す恐ろしい食中毒菌です。

なぜ危険なO157が、一見安全そうにみえるメンチカツから検出されたのでしょうか。

O157とは?

そもそもO157は大腸菌です。大腸菌は本来ヒトや動物の腸に多く生息し大部分は無害な菌ですが、一部、腸管出血性大腸菌(EHEC)と呼ばれる危険な大腸菌のグループがいます。

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大腸菌と腸管出血性大腸菌

 

腸管出血性大腸菌は毒素を作りヒトの臓器を破壊し、重篤な症状に陥ってしまいます。O157やO26などの腸管出血性大腸菌によって腎臓などを中心に後遺症を残すことがあります。10年以上前に起こった食中毒事件の患者が今も透析を受けているケースがあるのも事実です。

冷凍してもO157は死なないのですか?

冷凍しても菌は死にません。

メンチカツは加熱するのになぜO157が検出されたのですか?

本来ちゃんと加熱されていればO157は死滅します。大腸菌は75℃以上で1分以上加熱すると死滅します。

今回のメンチカツの食中毒事例は原因や感染ルートはまだ不明なのでメンチカツからO157が検出された経緯は不明ですが、一般的には1)使った食材がO157に汚染されていた、2)加熱不足、が重なって発生するケースが多いです。

O157はどこにいるの?

このようなO157ですが、実は牛などの反芻動物の腸管にいることがわかっています。実際、研究によると、10%前後の牛がO157を持っていると報告されています(地域、農場によって差がある)。そして牛の腸内にいるO157は、と殺・精肉の際に、食肉を汚染したり、未熟な牛糞堆肥の施肥によって野菜が汚染されることがわかっています。

O157はウイルスですか?菌とウイルスはどう違うのですか?

菌とウイルスはグループがまったく違います。O157は菌です。冬に大流行するノロウイルスやインフルエンザウイルスはウイルスで、形も大きさも菌とは違います。

ウイルスは非常に小さいため、蔓延しやすいのが特徴です。ノロウイルスやインフルエンザが毎年大流行する理由のひとつでもあります。

一方、O157は空気感染、飛まつ感染はなく、食材や水が原因となることがほとんどです。

菌とウイルスは違う

菌とウイルスは違う

食中毒菌はO157以外にもいる

O157は感染者が死亡することもある非常に危険な菌です。そのため、調理者、保育士、介護士、水道管理にかかわる人などは仕事をする前に検査を行うことになっています。

とくに厳しくルールが定められているのが大量調理マニュアルです。給食調理者、食品会社調理者など毎日大量に調理を行い、食を介する社会的影響が大きい人たち向けに作成されたマニュアルです。そこではO157だけでなく、それ以外の食中毒菌も含めて定期的に食中毒菌検便検査を行うことになっています。

O157(腸管出血性大腸菌)

重症化すると急性腎不全を引き起こす。溶血性尿毒症症候群(HUS)感染すれば死亡するケースもある。大阪府堺市の小学校学校給食による集団食中毒が発生した。患者数は9000人以上、児童3名が死亡した。給食が原因であるとは考えられたものの、いまだ汚染源は特定されていない。

O111(腸管出血性大腸菌)

感染すれば死亡するケースもある。2011年、ユッケを食べた人たちが下痢、血便症状を呈し、5人が死亡した。この原因菌のひとつとしてO111が検出された。この事件のあと、生食用食肉(牛肉)の規格基準に「腸内細菌科菌群が陰性であること」が追加された。

O26(腸管出血性大腸菌)

O157、O111と同様に危険な菌。下痢・血便を起こし、重症化すると溶血性尿毒症症候群や脳症を併発する。

サルモネラ

食中毒発生件数の中で上位を占める。50%近いニワトリの腸管に存在する。実際、厚生労働省のH27年調査によると、食肉販売店に置かれている鶏肉ミンチ62.9%からサルモネラが検出されている。

サルモネラではとくに不顕性感染に注意が必要。サルモネラに感染しているのに症状が全くなく排菌しつづけるケース。

赤痢

症状は発熱、腹痛、血便、下痢。重症化すると、溶血性尿毒症症候群(HUS)、敗血症などを併発し死亡することがある。

不顕性感染

不顕性感染とは、食中毒菌に感染しているのに本人に症状がなく、排菌しつづけることです。食中毒が発生するきっかけになる可能性がありますが、本人に症状がまったくないため検査によってしか発見できません。検便検査を行う目的のひとつはこの不顕性感染を見つけ出すことです。

不顕性感染の有名な例はメアリー・マローンという女性です。サルモネラ菌の一種であるチフス菌を保菌する不顕性感染者でした。本人に症状がなかったこと、そして彼女が調理者であったことが重なり、ニューヨークにて腸チフスが何度か発生し、死者も出ました。

不顕性感染はサルモネラ以外にも、O157、ノロウイルスなどでも知られています。定期的な検便検査で不顕性感染者がいないかチェックすることが非常に重要です。

サルモネラやO157が陽性になったときの対応

サルモネラは3000人程度に1人、O157は数万人に1人が陽性になると言われていますので、検便検査で陽性連絡を受ける可能性はだれにでもあります。

陽性報告連絡を受けた場合は、陽性者はすみやかに調理から離れ医療機関を受診します。多くの場合、抗生剤を処方されるので、必要日数服用し、再検査を受けます。陰性判定となれば、調理復帰、職場復帰となります。ただし、一回の陰性判定では可とならず、3回連続で陰性となって初めて職場復帰する施設もあります。O157や赤痢m、腸チフスの陽性者の場合、感染症法により保健所へ届出が必要になります。医療機関からも保健所へ連絡がいきますが、本人からも保健所へ連絡することが望ましいと思われます。

めったに遭遇するシーンでないからこそ、突然の陽性連絡にも落ち着いて対処したいものです。詳しい解説、対処方法をフローチャートでまとめた解説記事「検便検査の陽性者対応について(O157、サルモネラ、ノロウイルス)」もご参考ください。ノロウイルスの復帰手順もあわせてご参考下さい。

O157やサルモネラが陽性になったときの対応。調理から離れ病院を受診、抗生剤を処方される。O157なら保健所へ連絡、医療機関から連絡が行く。サルモネラなら再検査、陰性判定後、調理復帰

 

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